タイトロープ

人生綱渡り。決心のきっかけはいつも時間切れ。

Stairway to Heaven

ミュージカル「モーツァルト!」を観てきた感想を少々(2回鑑賞)。
観てからだいぶ時間が経ってるのは御容赦ください。
 
芸術は人心を動かす。音楽は人の内面に最もシンプルに訴えかける手段。
金銀宝玉のように、それ自体に価値がある。まさしく人の魂を昇華させる、天への陛。
そして、それを掌握することは富と権力の証。政治とも密接に結びついていて、歴史を形作ってきた。
ゲーテはこう書いた。軍隊の音楽は、まるで拳を開くようにわたしの背筋を伸ばす、とね。われわれが空港やカフェで聴くように、アウシュビッツにもまた、音楽は在った。目覚めを告げる鐘の音、歩調を合わせる太鼓の響き。どれほど疲れきっていても、どれほど絶望に打ちひしがれていても、タン、タン、と太鼓がリズムを刻めば、ユダヤ人たちの体はなんとなくそう動いてしまう。音は視覚と異なり、魂に直に触れてくる。音楽は心を強姦する。意味なんてのは、その上で取り澄ましている役に立たない貴族のようなものだ。音は意味をバイパスすることができる」
伊藤計劃虐殺器官」より)
あれはたぶん、今よりもっと娯楽がシンプルで、その種類も、そこに触れる手段も機会も限られていた時代のお話(その辺の時代背景を考慮しないと、大司教との確執のシーンとか「偉い人に何言われたって良いじゃん」ってなっちゃうと思うのよね)。
それゆえに、好きなように曲が作れない葛藤もたくさんあったのだろうなと。芸術に疎い自分が語るのもアレだけど、抑圧された心の奥底から湧き上がる情動が、より良い作品を生み出したって側面もあったのだと思う。

 

まぁ、御託はこの辺で良いや(笑)。

主要キャストの印象を書いておきましょうかね。

 
山崎ヴォルフガング:やんちゃで子供のように素直で、劇中で「プリンス」と呼ばれるように、奔放で周りを引っ張っていく印象。現実でも彼は王子様ぶりを爆発させていますよね。
古川ヴォルフガング:スマートで涼やかで、それでいて若さゆえの脆さや危うさが見え隠れして、周りが放っておけない印象。
全く同じシナリオであるにも関わらず、演じる人でここまで物語の印象が変わるものなんですね。
 
あと男爵夫人を演じた涼風真世さん香寿たつきさん、どちらも素敵でした。立ち居振る舞い、歌声、ただただ美しいと感じました。
涼風:高嶺の花と呼ぶに相応しい、高貴で気品あふれる女性。ヴォルフガングに対しても「気高くあれ」とその背中で語っているような。
香寿:慈愛に満ちた母のような存在感でヴォルフガングを優しく見守っている印象。歌声の柔らかいこと。
 
いくちゃん演じるコンスタンツェは歴史上「悪妻」と呼ばれた女性。でもストーリー上では違う側面が強調されていましたね。
家族との確執。夫と心を通わすことができない苛立ち。「悪妻」ではなく、「良妻になろうとしてなれない」女性でしたね。その理想と現実のギャップに葛藤する姿が強く描かれていた印象。
自分の実体験に重なる部分があって結構凹みました()
 
正直、いくちゃんが演じると可愛くなっちゃってアレなんですが、でも考えてみたら彼女も立派な成人女性なんですよね。
確かに序盤は幼い雰囲気を前面に押し出してて可愛さ全開だけど、中盤以降マダムモーツァルトと呼ばれる頃には、少女が大人の女性に変貌していく姿をしっかり演じていたと思います。
一番最後に全員で歌う場面、メインキャスト5人が他の役者の間を通って最前列に来るんですよ。その時ど真ん中を歩いてくるんですね。市村正親さんや、錚々たる役者さんを脇に従えて立つ姿のなんと堂々としたこと!
歌やストーリーにも感激したんですが、そのシーンで「いくちゃん凄いよ...」って思って一番泣きました。w
 
まぁ、そんな感想です。