タイトロープ

人生綱渡り。決心のきっかけはいつも時間切れ。

ペーパームーン・シャイン

樋口日奈ちゃん(=ひなちま)が出演するミュージカル「SHOW BOY」を観てきました(2回観劇)。
彼女目当てで観に行ったものの、ストーリーや、主演を務めた別の男性アイドルにすっかり魅了されてしまいまして。今回はその辺のことを中心に書いてみようかなと思います(ミュージカルの内容としては、華やかに歌って踊って、思いっきり笑わせてくれるエンターテイメント感満載のものです)。
 
以下、ネタバレ含むので、まだ見たくない人はUターンをば。
 

 

主演はジャニーズの「ふぉ~ゆ~」というグループの4人の男性。
「SHOW BOAT」という豪華客船のカジノやキャバレーを舞台に、乗り合わせた人々の人生が複雑に絡み合って大きな結末に向かっていく群像劇で、彼らはそれぞれ、乗組員、見習いマジシャン、ギャンブラー、マフィアという、4人の主役を演じます(今後、その役名で呼びます)。
ちなみに、ひなちまは酒癖が悪い&踊りの下手なダンサー役で(一応)ヒロイン。
更に詳しく説明すると、以下のような背景があります。
・乗組員:花形ダンサーだったが、船の支配人である姉を助けるため裏方に転職
・見習いマジシャン:プレッシャーに弱く、10年経っても全く成長せずクビになった
・ギャンブラー:家族の金を持ち逃げして縁を切られた上に、事業を失敗して借金漬け
・マフィア:実は親バカ。子供に言えない仕事なんてしたくないと内心では思っている
 
でね、ギャンブラーが、偶然居合わせた少女と心を通わせて、歌を歌うシーンがあるんですが、ここがとても印象に残りました。
彼は人生一発逆転を狙ってカジノに来たものの、負けて100万円を失って凹んでいたところで、この少女と出会います。そして彼女は問う。
 
「ねぇ、教えて。人生ってやり直せるの?」
 
でも彼は歯切れの悪い答えしか提示できない。
この時の彼だけでなく他の3人の主役についても、「こんな人生で良いのか」「他のまっとうな仕事に就いた方が良いんじゃないか」と問いかける場面が何度かありました。時に「俺もう32なんだよ」と何やら自虐的に話して観客から笑いが起こる場面も。
一度目を観た後で気になって調べてみたんですが、この「ふぉ~ゆ~」の4人って、ジャニーズとしては異例の苦労人なんだそうですね。10代前半で入所したものの、グループを結成してもらえたのは25歳の頃。さらに舞台で初めて主演を務めたのは、入所して17~8年が過ぎてからだったそうです。「アイドル」という、若さが一つの売りでもある職業としては、明らかに遅咲きの部類です。
だからこのミュージカルは、役に置き換わってはいるものの、彼ら自身の人生を投影した内容なんだと気づきました(そういえば終盤のダンス&歌唱パートで、歌詞を曖昧にしか覚えてないのですが「この歳でもアイドルとして頑張ってるんだ」的なことを歌っていた)。
 
そこでさっきのギャンブラーと少女の歌唱シーンです。
歌詞の内容をはっきりとは聞き取れなかったんですが「ペーパームーン」という単語が登場して、天井から降りてきた紙製の月に二人で腰掛けて宙を漂います。
そう、ペーパームーンとはハリボテの月。夜空に輝いているように見えるアレは本物の月ではなかった。
 
「これは自分が本当にやりたい仕事なのか」
「いつまでこんな仕事を、こんな人生を続けるのか」
「自分の本物の人生はどこにあるんだろうか」
たぶんだけど、こういうことって、仕事をしている多くの人が考えることじゃないかと思うのね。少なくとも僕はそうだった。特に、仕事が面白くなかったり、行き詰った時に強くそれを感じた。
うだつの上がらない人生を、自分以外の何かのせいにして、これは自分の人生じゃないって思うことで、何とか自分を保とうとした。こんなカッコ悪い生き方、こんなつまらない人生は、偽物だと。
けど、そうじゃない。人生というのは一度きりで、時間を巻き戻すことはできない。途中から生き方を変えることはできるかもしれないが、過去を無かったことにはできないし、今の人生は紛れもなく本物の、自分の人生である。どれだけ悔いても、どれだけ周りのせいにして恨み言を吐いても、結局は自分が選択した結果、今があるのだと。
 
だから、少女の問いの答えは、ある意味ではNOだし、ある意味でYESだ。
過去は変えられない。けど、現状は現状として受け入れて、これから自分がどう振る舞うべきか、その心掛け次第では、確かに明るい未来は存在するのだから。
 
そんなこんなで、4人と周囲の人たちの物語は徐々に絡まり合い、化学反応を起こし始める。ある一時で劇的に変わったわけではない。けど、各々の積み重ねてきたものが、何かをきっかけに少しずつ好転していく。そしてフィナーレへと。
けして万事が万事めでたしめでたしで終わる物語ではなかったけど、登場した人物は皆一様に希望溢れる表情を見せていて、彼らはきっと、この先に何があっても光を失うことなく困難を乗り越えて行けるんだと確信できた。
 
ペーパームーンについて歌うシーンはまだ序盤で、ギャンブラーは問いの答えを出せなかった。けど、あの時二人は確かに微笑み合っていたし、少女の無垢な想いに呼応して、彼も希望の光を見出しているように感じられた。
ハリボテの月であろうと、少女を乗せて空を飛ぶことだってできる。不格好だって良いじゃないか。それは確かに自分にとって本物の月で、自分に出せる限りの光を放っていて、少女に夢を見せて笑顔にさせてあげられたじゃないか。
それこそが、あのペーパームーンが暗示する物語の結末だったのだと僕は思っている。
 
そんなワケでね、おじさんに凄く突き刺さる内容の物語でした。けど、おじさんだけじゃなくて、 就職活動中だったり働き始めたばかりで将来に不安を感じているような若い人たちにも、是非触れて欲しい物語だなぁと。
 
ふぉ~ゆ~の4人も、これから応援していきたいと思ってます!
 
--------キリトリセン--------
 
今回のタイトル「ペーパームーン・シャイン」はお気づきの方もいるかも知れませんが、アニメ「交響詩篇エウレカセブン」の第9話サブタイトルからの引用です。
 
エウレカ自体、サブタイトルを何かから引用していることが多いので、そもそもの元ネタは何だろうと思って調べてみたら、「ペーパームーン」というタイトルの映画があったんですね。どうやら、詐欺師の中年男性と少女の交流を描いたロードムービーだそうです。劇中、少女がハリボテの月に座りたがるシーンがあるらしい。ギャンブラーと少女のシーンは、そんなところへのオマージュもあったのかな、という余談。
 
樋口日奈

樋口日奈とは編集